「株で1億儲けた」話は、コイン投げ大会の自慢話と同じ。本書は、そんな個人的経験やデイトレ、テクニカル分析を「見当違いの努力」と一刀両断します。プロの7割が市場平均に負ける現実を踏まえ、医学のように「エビデンス(科学的根拠)」に基づく株式投資(EBI)を提唱。「良い企業」の株が下がり、「ダメ企業」の株が上がるという衝撃のデータを突きつけます。PER、PCFR、業績修正など、本当に有効なファクターだけを使い、機械的に年20%のリターンを目指す。感情を排し、データに従う堅実な投資家必携のバイブルです。
『エビデンスに基づく株式投資』要点
1. EBI(エビデンスに基づく株式投資)の基本姿勢
EBI(Evidence-based investment)とは: エビデンス(科学的根拠)をもとにした投資法であり、各種ファクター(投資指標)のエビデンスを知ることから始まる。
推奨する投資家: 株式投資を趣味や目的ではなく、資産形成のための「手段」と考えている大部分の個人投資家。
目指すリターン: この方法(機械的銘柄選択法)で「ゆったりと年20%のリターン」を目指す。
デイトレ・テクニカル分析の否定: これらは「見当違いの努力」である。プロ投資家でさえ7割以上が市場平均以下の成績しか上げられない。
ファンダメンタル分析の限界: 「実りの少ない努力」である。
個人的経験の否定:
「1億円儲けた」といった株本は、個人的な成功体験に基づいているにすぎない。
それは「コイン投げ大会のチャンピオンがコイン投げの極意を語る」のと同じで、本質的に滑稽で危うい。
人間は個人的経験を重視しがちだが、長期的にはエビデンスが個人的経験に勝る。そのほとんどは「自信過剰バイアス」による思い込みである。
2. 成長神話の否定:「エクセレント・カンパニー」のワナ
利益成長の非相関性: 前期の利益成長率と今期の利益成長率は、まったくと言っていいほど相関がない。
投資家の誤解:
投資家は「前期増益率が高かった企業は今期もいいだろう」と誤って予想し、株価は過大評価(割高)される。
逆に「前期減益率が大きかった企業は今期もだめだろう」と悲観され、株価は過小評価(割安)される。
業績の「平均への回帰」:
「エクセレント・カンパニー」(過去の業績が良かった企業)も、「非エクセレント・カンパニー」(業績が悪かった企業)も、翌年以降の業績は急速に「平均」へ回帰する。
(例外:5年連続増益を続けた企業は、偶然の確率以上にその後も増収増益を続ける傾向がある)
エクセレント度の定義: ある研究では、(1)総資産成長率、自己資本成長率のランキング対数値、(2)平均PBRのランキング対数値、(3)平均総資産税引後利益率、平均自己資本税引後利益率、平均売上高税引後利益率のランキング対数値、の3項目の平均値を「エクセレント度」と定義している。
株価の逆転現象:
上記の「エクセレント度」が高い「エクセレント・カンパニー」は過大評価されているため、その後の株価は急落する。
「非エクセレント・カンパニー」は過小評価されているため、その後の株価は上昇する。
投資家は、業績がほんの少し平均へ回帰し始めただけで、あわててエクセレント株を売り、非エクセレント株を買い始める。
成長セクター投資のワナ:
成長セクターへの集中投資も期待外れに終わる。
理由①:次の成長セクターを同定することは極めて困難である。
理由②:仮に予測できても、成長セクターは必ずしも高い株価リターンを保障しない。株式発行が頻繁に行われるため、時価総額は増えても株価リターンは平均(S&P500)を下回ることがある(米国のハイテク・金融セクターなど)。
3. 唯一有効な「成長」ファクター:研究・開発費(R&D)
将来の利益成長との関連: 唯一、将来の利益成長と関連があるものは「研究・開発費(R&D)」である。
R&D比率と株価リターン:
研究・開発費の売上高に対する比率が大きい企業ほど、将来の利益成長が継続し、株価リターンも高くなる。
日本株では、最もR&D比率の高いグループは年率3.7%のリターン、最も低いグループは年率-1.1%のリターンとなり、比率が高いほど直線的にリターンが良くなる。
この傾向は1年後から10年後まで一貫して続く。
日米のR&D企業の特徴:
米国:R&D比率が高い企業ほど「規模が小さい」。
日本:R&D比率が高い企業ほど「規模が大きい」(大型株)。
共通点:日米ともに、R&D集約型の企業ほどPBRが高い。
超過リターンの理由(仮説): ① R&Dの企業価値評価は困難であり、会計上のルールによりミス・プライシングが起きやすい。 ② R&Dのリスクを反映したものである。
4. EBIの柱①:バリュー(割安性)ファクター
代表的なファクター: PER、PBR、PCFR、EV/EBITDA、配当利回りなど。
バリュー効果の優位性:
MSCIの調査では、これら4つのバリュー系ファクターはほとんどすべての国で有効である。
特に「日本株」はバリュー効果が最も高く、グロース株との差は10%近くに達する。これを使わない手はない。
日本では4分の3の期間でバリュー株はグロース株のリターンを上回っている。
予想値の重要性: 実績値よりも「今期予想」や「来期予想」を使ったファクターのほうが、有効性が格段に高い。
A) PER(株価収益率)
定義: PER = 株価 / 1株あたり純利益(EPS)。
種類:
実績PER: 前期の実績EPSを用いる。
今期予想PER: 今期予想EPSを用いる。
来期予想PER: 来期予想EPSを用いる。
フォワードPER: 今期予想EPSと来期予想EPSを、今期の残存期間に応じて期間按分ウエイトで加重して算出したフォワードEPSを用いる。予想値の修正や時間の経過で変動する。
有効性:
PERが低い(割安)ほどリターンは良くなる。PER最低位グループのリターンは、最高位グループより約20%も良い。
実績PERより、今期予想PER、来期予想PER、フォワードPERの方が有効性が高い。
安定性: 低PER効果は「大型株」で特に有効であり、安定的(リスクが低い)にリターンが稼げる。
リスク: 低PER銘柄のリスク(標準偏差、ダウンサイド・リスク)は、高PER銘柄より明らかに低い。
長期保有: 保有期間が長くなるほど(例:10年)、大型株・低PER銘柄のリターンが市場全体を上回る確率は高くなり(88%)、非常に安定的になる。1年目から5年目まで一貫してリターンが良いため、頻繁な銘柄入れ替えは不要。
業種: 業種内で相対的に低PERな銘柄もリターンが良い。
時間軸による新定義:
グロース投資(長期志向): 基準時点までの「平均PER」が高い銘柄を選ぶ。
バリュー投資(短期志向): 「直近のPER」が「平均PER」より低い銘柄を選ぶ。
B) PCFR(株価キャッシュフロー倍率)
定義: PCFR =株価 / 1株当たり営業キャッシュフロー。
優位性: 利益(PER)は会計操作の影響を受けるが、キャッシュフローは受けにくいため、PCFRの方が実態を反映しやすい。「利益は意見、キャッシュフローは事実」。
営業CFの多様な計算方法:
簡易法(クオンツ系で多用): 営業CF = 純利益 + 減価償却費
その他①: 営業CF = 実績税引後利益+実績減価償却費+(流動資産の変化-現金等価物の変化)-(流動負債の変化-債務の変化-所得税支払額の変化)
その他②: 営業CF = 純利益 + 減価償却費+配当- 役員賞与
予想値の計算: 予想CF = 予想税引後利益 + 前期減価償却費 など。
安定性: バリュー系ファクターの中で最も安定的。低PCFR銘柄はリターンが良い(平均値も中央値も高い)ため、銘柄選択が比較的簡単である。
リスク: 高PCFR銘柄はリスク(標準偏差、ダウンサイド・リスク)が極めて高く、選択すべきではない。
長期保有: 低PERと同様、一度選択すれば5年間は保有したままでよい。
景気との関係: 景気の山に近い局面(設備投資が多い時期)では、有効性がやや低下する傾向がある。
C) PBR(株価純資産倍率)
定義: PBR = 株価 / BPS(1株あたり純資産)。
純資産の注意点:
通常は「簿価純資産」(簿価の資産-負債)が使われるが、これには前払費用や繰延資産なども含まれる。
企業価値評価のためには時価ベースへの修正(例:未認識退職給付債務や偶発債務の反映)が必要となる。
減損会計: 収益性低下で投資回収が見込めない場合、帳簿価格を引き下げる処理。対象は有形固定資産(土地建物)、無形固定資産(のれん、特許権)、投資その他の資産など。
有効性: 低PBR効果も過去から現在まで多くの国で有効。
安定性: PERやPCFRに比べ、安定性にやや劣る。
低PBR銘柄の高い平均リターンは、少数の「大化け株」による所が大きく、リターンがマイナスの銘柄数の方が多い(中央値がマイナス)。
「当たれば大きい宝くじ」のようなもので、銘柄選択が難しい。
大型株・低PBR銘柄の方が、小型株・低PBR銘柄よりも「当たり外れ」の程度は小さい。
リスク: 高PBR銘柄はリターンが悪く、リスクが極めて高い。
PBRとファンダメンタル: 低PBR銘柄は過去のEPS成長率が低下しているが、銘柄選択時を境にEPSが上昇傾向に戻り、株価も反応する。
PBRとROE: 低PBR銘柄の中から選別するには、利益成長率ではなく「ROE」で選別すべき。
PBRとPERの組み合わせ:
PBRは単独では使いにくいが、他ファクター(特にPER)と組み合わせると安定性が向上する。
リターンは「低PER&低PBR」が最強。
PBRよりPERの方がリターンへの影響力が強い。
D) EV/EBITDA
背景: 企業買収時の「のれん」償却など、会計ルールによる影響を排除するため考案された。
定義:
EBITDA: 営業利益 + 減価償却費(簡易法)。(※厳密には金利、税金、減価償却費を引く前の利益)
EV(企業価値): 時価総額 + 有利子負債 - 現金・預金 + 一時保有有価証券。
有利子負債: 長短期借入金、社債、転換社債など。
優位性: 国際比較が容易で(減価償却法や税率の違いを受けにくい)、PERやPCFRに勝るとも劣らない有益な指標。
景気との関係: 金融不安の時期(1997年)には財務安定性の観点から有効性が高まった。
E) その他のバリューファクター
PDR (株価配当倍率): PDR = 株価 / 1株あたり配当。
PSR (株価売上高比率): PSR = 株価 / 1株あたり売上高。米国では有効性が高いとされるが、日本株では有効性が低いというエビデンスが多い。
5. EBIの柱②:利益の質(アクルーアル)
定義: アクルーアル = 会計上の利益 - キャッシュフロー。「利益は意見、キャッシュフローは事実」。
計算式: アクルーアル=(流動資産の変化-現金同等物の変化)-(流動負債の変化-債務の変化-所得税支払額の変化)-減価償却費と割賦弁済
高アクルーアル(質の悪い利益):
会計上の利益は大きいが、キャッシュフローが伴っていない状態。(例:売掛金や棚卸資産(在庫)が急増)。
粉飾決算の兆候である可能性もある。
アナリストは会計上の利益を重視しがちで、このミスプライシングが利益の源泉となる。
アクルーアルと株価リターン:
低アクルーアル(キャッシュフローが伴う利益)銘柄は、リターンが良い。
高アクルーアル(利益の質が悪い)銘柄は、リターンが悪い。
この効果は、PER、PBR、小型株効果とは独立したファクターである。
アクルーアルと将来の業績:
高アクルーアル企業は、その後「業績の下方修正」をされる場合が多い。
低アクルーアル企業は、その後「業績の上方修正」をされる場合が多い。
構成要素より総和: 売掛債権の増減、棚卸資産の増減などの各ファクターより、それらの総和であるアクルーアルの方が株価リターンとの相関が強い。
活用法: 低PER・低PBRなどのファクターと「低アクルーアル」を組み合わせることで、リターンは非常に向上する。
6. EBIの柱③:財務・収益性ファクター
A) 財務健全性(ディストレス・リスク)
ROD(経常利益 / 有利子負債): 財務ファクターの中で、株価リターンとの相関が最も強い。RODが高い(財務が良い)銘柄ほどリターンが良い。
O-score(倒産リスク):
倒産リスクを定量化するモデル。O-scoreが高いほど倒産確率が高い。
構成要素: 運転資本/総資産、有利子負債/総資産、予想純利益/総資産、ROD(予想経常利益/負債)など。
計算式例: O-score = -1.32 - 0.407log(総資産) + 6.03(負債合計/総資産) - 1.43(流動資産/総資産) + 0.076(流動負債/流動資産) - 1.72m - 2.37(純利益/総資産) - 1.83(営業CF/負債合計) + 0.285n - 0.521*1 (m, nは特定の条件で0か1)
PBRとリスクの誤解:
「低PBR銘柄は財務リスク(ディストレス・リスク)が高いからハイリスク・ハイリターンだ」という伝統的ファイナンスの説明は間違いである。
実際には「高PBR銘柄」のほうがディストレス・リスクが高い。
最悪の組み合わせ: 「高O-score(高リスク)& 高PBR(割高)」銘柄。
投資家が他の高PBR銘柄(成長株)と誤認してミスプライシングが起きている。
これらの銘柄は異常にリターンが悪いため、決して買ってはいけない。
B) 収益性(ROE, ROA, ROIC, マージン)
ROE(自己資本利益率):
定義: ROE = 純利益 / 株主資本。
理論: 企業が増資なしで達成できる利益・配当成長率(サステイナブル成長率)を表す。
有効性: 単独では、株価リターンとほとんど相関しない(米国株、日本株)。
理由: ①すでに株価に織り込まれている、②平均回帰する(高ROEは将来低下しやすい)、③負債比率を上げても上昇する(財務リスクを反映しない)。
ROA(総資産利益率):
定義: ROA = 純利益 / 総資産。
有効性: レバレッジの影響を受けないため、ROEより使いやすい可能性がある。
ROIC(投下資本利益率):
定義: ROIC = 営業利益 * (1-税率) / (投下資本)。
投下資本の計算(方式):
ファイナンシング方式: 有利子負債 + 株主資本
オペレーティング方式: 正味運転資本 + 固定資産
有効性: 財務リスクや営業外の影響を控除するため、ROEより優れているとされ、著者も重視している。
マージン(売上高純利益率):
定義: マージン = 純利益 / 売上高。
有効性: ROEよりもマージンの方が、株価リターンとの相関が強く、安定的で使いやすい。
ROEの改善率:
ROEの「水準(高さ)」よりも、ROEの「改善率(変化)」の方が株価リターンとの関係が深い。
低PBR銘柄の中でも、「ROE改善率が高い銘柄」は特にリターンが高くなる。
7. EBIの柱④:アナリスト情報(業績修正)の正しい使い方
アナリスト予測の性質: アナリストの予測は総じて「楽観的」(実績が予想を下回る)である。特に利益が大きく変化する局面(赤字転落、黒字転換)では予測精度がきわめて悪くなる。
① アナリスト・レーティング(格付け):「売り」
アナリストのレーティング(「買い推奨」など)は、リターンの予測に役立たない。
東証1部では、むしろ「買い推奨」銘柄のリターンが悪く、「売り推奨」銘柄のリターンが良い(逆張り指標)。
「低PERだが、アナリストのレーティングも低い(オンボロ株)」銘柄は、投資家が避けるため株価がディスカウントされ、結果的に期待リターンが高くなる。
(例外:日本の新興市場では、高レーティング銘柄のリターンが良いという結果もある)
② 業績修正(モメンタム):「買い」
業績予想の「修正」は、株価インパクトが大きい。
上方修正: 発表後も株価は持続的に上昇する(特に店頭株で顕著)。
下方修正: 発表前から株価は下がっており、発表後はむしろ上昇に転ずること(リターン・リバーサル)が多い。
なぜ修正が続くのか(保守バイアス):
アナリストも投資家も新しい情報をすぐに受け入れられず、修正が過小になりがち。
その結果、「上方修正の後には、さらなる上方修正が続き」、「下方修正の後には、さらなる下方修正が続く」傾向がある。
「万年割安株」を避ける方法:
低PER(割安)銘柄が「上方修正」された場合、市場の期待が低かった分サプライズが大きく、リターンが非常に高くなる。
低PER銘柄が「下方修正」された場合、「織り込み済み」として株価が下がらず、むしろ「出尽くし」で上昇さえある。
高PER(割高)銘柄が「下方修正」された場合、サプライズが大きく株価は暴落する。
結論:「低PER(または低PBR)銘柄」に限定した上で「上方修正」情報を利用するのが最も効率的である。
タイミング:
コンセンサス予想が修正されてからでは遅い。
最初に業績修正を行う「大胆者」(First Mover)のアナリストに注目すべき。「追随者」の情報や、多くのアナリストの意見が一致した頃には、株価はピークを迎えている。
SUE (四半期業績サプライズ):
定義: SUE = (直近四半期のEPS - 4四半期前のEPS) / 過去8四半期の業績サプライズの標準偏差
有効性: 高SUE(ポジティブ・サプライズ)銘柄の買い、低SUE(ネガティブ・サプライズ)銘柄の売りは、6ヶ月〜1年間有効。
アナリスト予想の「ばらつき」:
定義: ばらつき(D) = 不確実性(V) + コンセンサスの欠如(1-C)
有効性:
ばらつきが大きい(不確実性やコンセンサス欠如が大きい)銘柄は、株価リターンが悪い。
コンセンサスが低い(アナリスト間の意見が一致していない)ほど、株価リターンが良い。
理由(仮説): ばらつきが大きい銘柄は、悲観的な投資家が空売りせず「何もしない」ため、株価にロングバイアスがかかり、期待の剥落とともに株価が低迷する。
8. その他の重要ファクター(小型株・モメンタム・複合指標)
A) 小型株効果
有効性: 時価総額の小さな小型株は、大型株よりリターンが良い。
バリュー vs 小型株: 小型株効果よりも、PERやPBRなどのバリュー効果の方がリターンへの影響力が大きい。小型株である「だけ」で銘柄を選択すべきではない。
小型株の特性:
「小型株・低PBR」銘柄は平均リターンこそ高いが、「当たり外れ」が極端で銘柄選択が非常に難しい(宝くじ的)。
「大型株・低PBR」銘柄の方が、当たり外れが少なく安定的。
小型株は市場が非効率的(情報への反応が遅い)ため、「上方修正された割安な小型株」は非常に魅力的である。
B) モメンタムとリターン・リバーサル
定義:
モメンタム: 過去の勝者(上昇銘柄)が勝ち続ける。
リターン・リバーサル: 過去の敗者(下落銘柄)が盛り返す。
市場による違い:
欧米株:短期(1年以下)はモメンタム、長期(1年以上)はリターン・リバーサル。
日本株(東証1部):短期(1ヶ月)でも長期でもリターン・リバーサルが観測される。
(例外:日本の大型株や新興市場株ではモメンタムが観測されることもある)
結論: 普遍的なファクターではないため、これ(逆張り)だけで銘柄を選択すべきではない。
リバランス期間:
日本株の短期リターン・リバーサルを考慮すると、リバランス(銘柄入替)期間は短いほどリターンが良くなるが、回転率が上がりすぎ取引コストがかさむため現実的ではない。
総合フローバリュー:
定義: 利益バリュー、キャッシュフローバリュー、EBITDAバリュー、REVAバリューを等比で合成した指標。
REVA: EVAが簿価ベースの投下資本を使うのに対し、REVAは時価ベースの投下資本を用いて計算する。
C) PiotroskiのF_SCORE(低PBR銘柄の選別)
目的: 低PBR銘柄の中から、財務的に健全でリターンが期待できる銘柄を選別するスコア。
定義: 以下の9項目を0か1で得点化し、合計(9点満点)。
ROA (純利益/総資産) > 0 なら1点
⊿ROA (ROAの改善度) > 0 なら1点
CFO (営業CF/総資産) > 0 なら1点
ACCRUAL (CFO > ROA) なら1点
⊿LEVER (長期負債比率の低下) > 0 なら1点
⊿LIQUID (流動比率の改善) > 0 なら1点
EQ_OFFER (過去1年の公募増資なし) なら1点
⊿MARGIN (売上高総利益率の改善) > 0 なら1点
⊿TURN (総資産回転率の改善) > 0 なら1点
有効性: F_SCOREが高い(8点や9点)低PBR銘柄は、リターンが大幅に改善する。特に中・小型株で極めて有効。
日本株版 (Noma): ⊿ROA、CFO、⊿MARGINの3項目だけでも、中・小型株で有効性が確認されている。
D) G_SCORE(高PBR銘柄の選別)
目的: 高PBR銘柄(成長株)から、真の成長株を選別するために考案されたスコア。
定義: 財務情報を含まず、収益性・変動性・保守性を重視。以下の8項目(業種中央値と比較)の合計。
ROA > 業種中央値 なら1点
CFROA (営業CF/総資産) > 業種中央値 なら1点
CFROA > ROA なら1点
VARROA (ROAの変動性) < 業種中央値 なら1点
VARSGR (売上高成長率の変動性) < 業種中央値 なら1点
RDINT (研究開発費/総資産) > 業種中央値 なら1点
CAPINT (設備投資/総資産) > 業種中央値 なら1点
ADINT (広告宣伝費/総資産) > 業種中央値 なら1点
有効性: PBRの高低に関わらずG_SCOREが高いほどリターンが良い。ただし、バリュー期間(市場全体が割安)では有効性が高くないため、むしろ「低PBR銘柄の絞り込み」に使う方が有効と思われる。
9. EBIの実践的ポートフォリオ戦略
4つの絶対条件: ①割安である(最重要)、②財務状態がよい、③収益性が高い、④業績予想の上方修正。
具体的スクリーニング基準(著者案の目安):
割安性:
PER < 12 (今期予想PERなどを用いる。景気により基準は変動させる)
PCFR < 8 (最も安定的なため重視。今期予想を用いる)
EV/EBIT < 8 (または EV/EBITDA < 6)
PBR: 単独では使いにくい(万年割安株リスク)ため、PERなどと組み合わせて使用。
財務性:
ROD > 0.3
有利子負債キャッシュフロー比率 < 4
収益性:
ROIC > 20% (ROEやROAより重視)
営業利益売上高比 > 15%
マージン > 7% (ROEよりマージンを重視)
ROE > 12% (重視しないが、ROEの「改善」は重要)
モメンタム: 業績上方修正(特に「初期の」修正)があった。
除外: アナリストの格付けが「最高位で一致」している銘柄は避ける(東証1部)。
分散投資の必要性:
最低でも20銘柄以上に分散する。
<b>理由①(リスク低減)</b>:現代ポートフォリオ理論。
<b>理由②(大化け株の捕捉)</b>:割安株の高い平均リターンは「少数の大化け株」に依存しているため、銘柄数を増やさないと「大化け株」をポートフォリオに組み込む確率が下がり、リターンが平均値に近づかない(中央値に偏る)。
ベイズの定理の例: 5倍になる確率が0.3%の銘柄を75%の精度で抽出できる手法でも、抽出した銘柄が本当に5倍になる確率はわずか4.1%。よって銘柄数を増やす(分散する)必要がある。
売買の合理的判断:
非合理な売買: 「買値から-8%で損切り」「+20%で利益確定」という、自分の買値を基準にした売買は何の合理性もない。
合理的な売却時期:
株価が上昇し「割高」になったと判断した時。
明らかに下方修正が続くと判断した時(減収減益など)。
他に「さらに割安な銘柄」が現れた時。
株価が順調に伸び、ポートフォリオ内の比率が大きくなりすぎた時(リバランス)。
避けるべき行動:
マーケット・タイミング: 不可能。株価の大幅上昇は予測不可能なため、常にフル・インベストメント(市場に居続ける)が基本。
長期投資の誤解: 長期投資がリスクを減らすわけではない。「長期」も「短期」も、基本は「割安な銘柄」を買うことだけ。
得意分野への過信: 自分の専門分野(例:医者が製薬株)は、かえって主観や自信過剰バイアスに陥りやすいため注意。
「観察」のワナ: 店に行って「流行っているか」見るなどの調査は、個人的バイアスを強めるため有害無益。
コミュニティとの距離: 個人投資家の集団は「リスキー・シフト」などの集団バイアスにかかりやすい。話題の銘柄は避ける。
他者との競争: 他の投資家とパフォーマンスを競争しない。比較するならTOPIXなどのベンチマークにする。
マネー雑誌: 9割が有害無益。紹介されている「テーマ株」は無意味であり、むしろ避けるべき。
心構え:
「個々の銘柄」に自信を持つ必要はない。持つべきは「自分の投資方針(=EBI)」に対する自信である。
本業に専念し、サラリーという定期収入を強みとする。
*1:今期予想純利益-前期純利益)/(|今期予想純利益|+|前期純利益|







