なぜ、あなたのトレードは勝てないのか?――相場を支配する「第3の眼」を手に入れる一冊
「トレンドの方向性は合っていたはずなのに、なぜか利益が残らない…」 「恐怖で利食いを急ぎ、欲望で損失を拡大させてしまう…」
もしあなたが、トレーディングのそんな終わらないループに迷い込んでいるのなら、その根本原因は「相場予測の精度」にあるのではありません。本書は、その残酷な真実を突きつけ、同時に、あなたを凡庸なトレーダーからプロフェッショナルの領域へと引き上げる、究極の戦略書です。
成功するトレーダーとその他を分かつもの、それは**「売買の優位性」**を知っているかどうか。本書の哲学は明快です。彼らは闇雲にポジションを取るのではなく、「特別な状況」――つまり、数学的確率と価格の不均衡が、圧倒的に自分に有利に傾いた局面でのみ、冷静に引き金を引くのです。
その優位性の源泉こそが、オプション取引の心臓部である**「ボラティリティ」**の深い理解。本書を読めば、あなたは単なる価格チャートの向こう側に、市場参加者の「期待」と「恐怖」が織りなす、もう一つのトレンドが見えるようになります。ボラティリティが低い「静寂の市場」に大相場の予兆を嗅ぎ取り、ボラティリティが高い「熱狂の市場」でプレミアムを刈り取る。それはまさに、相場を支配する「第3の眼」を手に入れることに他なりません。
本書が授ける武器は、あなたのトレーディングを根底から覆すでしょう。
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「ニュートラル・オプション・ポジション」: 相場の方向性を予測せず、「時間の経過」そのものを利益に変える、まるでカジノの胴元のような戦略。
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「レシオ・スプレッド」: 相場急騰の最中、価格の歪みを利用し、信じがたいほどの広い利益範囲を確保する驚異の戦術。
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「フリー・トレード」: ポジション構築後にリスクをゼロにし、精神的プレッシャーから完全に解放される究極のテクニック。
正直に申し上げて、本書は決して簡単な本ではありません。しかし、その難解さこそが、その他大勢から抜け出すための参入障壁なのです。この一冊を血肉と化すまで読み込み、著者が説く「柔軟性」「忍耐」「規律」を身につけたとき、あなたは市場を全く新しい視点で見つめているはずです。
これは、単なるオプションの教科書ではない。感情的なギャンブルから脱却し、確率を支配する冷徹な戦略家へと生まれ変わるための、唯一無二のバイブルです。本気でプロを目指す、志の高いあなたにこそ、この扉を開いてほしいと願います。
序論:オプション取引で成功するための核心的哲学
本書は、オプション取引の世界で長期的に成功を収めるための哲学、戦略、そして規律を網羅的に解説するものである。著者が数十年にわたる経験から学んだ最も重要な教訓は、**「柔軟性」と「忍耐」**という二つの言葉に集約される。
柔軟性とは、第一に、特定の相場観に固執せず、市場のトレンドに素直に乗る能力を指す。市場は常に変化しており、上昇、下降、横ばいといった異なる局面を見せる。優れたトレーダーは、自分の予測を市場に押し付けるのではなく、市場が現在どのような状況にあるかを冷静に分析し、その状況に最も適した戦略を選択する。第二に、過去に成功したからといって、一つか二つの売買戦略だけに固執しないことである。オプション取引には多種多様な戦略が存在し、それぞれが特定の市場環境下で最大の効果を発揮する。ボラティリティの水準、トレンドの有無、価格の歪みなど、市場がわれわれに与えてくれる情報に合わせて戦略を柔軟に使い分けることこそが、成功への鍵となる。
一方、忍耐とは、取引機会を厳選し、「売買しすぎない」自制心を指す。市場は常に何かしらの動きを見せているが、そのすべてが利益の機会となるわけではない。プロのトレーダーは、ポーカーの名手が一流のカードが配られるまで辛抱強く待つように、自身にとって統計的に「優位性」のある、最高の売買機会だけを待つ。具体的には、市場のテクニカル・パターンが明確なシグナルを発し、かつ、オプションのボラティリティが戦略に対して好ましい水準にあるといった「特別な状況」が発生するまで、取引を見送るのである。
本書の目的は、この「柔軟性」と「忍耐」という哲学を土台としながら、トレーダーが市場に対して「売買の優位性」を獲得するための具体的な知識と手法を余すところなく伝えることにある。単に安いという理由でオプションを買うのではなく、プレミアムが理に適い、大きな利益をもたらす可能性が高いと判断したときにのみ仕掛ける。好ましいリスク・リワード関係、あるいは高い利益確率を持つポジションを構築する。そのための科学的側面(オプションの機能、ボラティリティ、確率論)と、技術的側面(経験から得られる洞察、注文執行の技術)の両方を深く掘り下げていく。本書を繰り返し読み込み、その内容を血肉とすることで、読者は感情に流されず、規律に基づいた一貫性のあるトレードを実行できるようになるだろう。
第1部:オプション取引の基礎知識
オプション取引の戦略を理解するためには、まずその基本的な仕組みと用語、そして価値を決定する要因を正確に把握する必要がある。
1. オプションとは何か
オプションとは、特定の資産(原資産)を、将来の特定の期日(満期日)までに、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で「買う権利(コール・オプション)」または「売る権利(プット・オプション)」を売買する取引である。重要なのは、これが**「権利」であって「義務」ではない**という点だ。
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買い手: オプションを購入する際に支払う代金(プレミアム)が最大のリスクとなる。一方で、相場が思惑通りに大きく動いた場合の利益は理論上無限大となる(コールの場合)。リスク限定、利益無限大の非対称な損益構造を持つ。
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売り手: オプションを売る際に受け取るプレミアムが最大の利益となる。一方で、相場が思惑と反対に大きく動いた場合の損失は理論上無限大となる。利益限定、リスク無限大の構造を持つ。
この非対称性こそが、オプション取引の魅力とリスクの根源である。なお、実際の取引では、98%以上が権利行使されることなく、反対売買によってポジションが手仕舞われるか、満期を迎えて価値が消滅する。
2. オプションの価値:本質的価値と時間価値
オプションのプレミアム(価格)は、「本質的価値」と「時間価値」という二つの要素で構成される。
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本質的価値: 今すぐ権利行使した場合に得られる利益のこと。
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コールの場合:原資産価格 > 権利行使価格 のとき、その差額が本質的価値となる。
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プットの場合:権利行使価格 > 原資産価格 のとき、その差額が本質的価値となる。
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時間価値: 満期日までの間に、オプションが利益を生むかもしれないという期待感に対して支払われる価値のこと。満期日が遠いほど、またボラティリティが高いほど、時間価値は大きくなる。
オプションの状態は、原資産価格と権利行使価格の関係によって以下の3つに分類される。
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イン・ザ・マネー(ITM): 本質的価値を持つ状態。
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アット・ザ・マネー(ATM): 原資産価格と権利行使価格がほぼ等しい状態。
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アウト・オブ・ザ・マネー(OTM): 本質的価値を持たない状態。プレミアムは時間価値のみで構成される。
3. タイム・ディケイ(時間価値の減少)
オプションの買い手にとって最大の敵は、時間の経過とともに時間価値が減少していく「タイム・ディケイ」である。この減少は一定のペースで進むわけではなく、満期日の90日前あたりから緩やかに加速しはじめ、最後の30日間でその速度は急激に増す。 この特性を理解することは極めて重要である。オプションを買う場合は、この急激な価値減少を避けるため、少なくとも3ヶ月以上の残存期間があるオプションを選ぶことが推奨される。そして、もしポジションが利益目標に達しない場合は、タイム・ディケイが最も激しくなる満期日の3週間前までには手仕舞うべきである。逆に、オプションの売り手にとっては、このタイム・ディケイが利益の源泉となる。
4. オプション価値の5大決定要因
オプションのプレミアムは、以下の5つの要因によって常に変動している。
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権利行使価格: コールは権利行使価格が低いほど、プットは高いほどプレミアムは高くなる。
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満期までの期間: 満期までの期間が長いほど、時間価値が大きくなりプレミアムは高くなる。
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ボラティリティ: 市場の価格変動が激しくなると予想される(ボラティリティが高い)と、オプションが利益を生む可能性が高まるため、プレミアムは上昇する。
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金利: 金利が上昇すると、コール・プレミアムは上昇し、プット・プレミアムは下落する傾向がある。(※ただし、本書の一部では逆の記述も見られる。一般的には、金利上昇はコールにプラス、プットにマイナスとされることが多い。これは、コール買いの機会費用が増えるため、それを補う形でプレミアムが上昇するという解釈と、プット買いの機会費用が減るためプレミアムが下落するという解釈による。)
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需給: 市場が強いトレンドを形成していると、その方向に沿ったオプション(強気相場ならコール)への需要が高まり、供給が減少するためプレミアムは上昇する。
5. 先物オプションと株式オプション
本書が主に対象とするのは先物オプションであり、株式オプションとは主に証拠金制度と権利行使の点で異なる。特に証拠金については、1990年から導入された**SPAN(Standard Portfolio Analysis of Risk)**証拠金制度により、ポートフォリオ全体のリスクを考慮した、より柔軟で合理的な証拠金計算が可能になっている。これにより、先物オプションの売り戦略などにおいて、資金効率の良い取引が可能となる。
6. 流動性の重要性
オプション取引、特にスプレッド取引を行う上で、流動性は極めて重要である。流動性が低い市場では、買値と売値の差(スプレッド)が広がり、意図した価格で約定できない「スリッページ」が発生しやすくなる。 著者は1日の出来高で市場をランク付けしている。
例えば、Tボンド(米国財務省証券)オプションは1日の平均出来高が5万枚を超え、最も流動性が高い市場の一つである。流動性の低い市場では、成り行き注文や逆指値注文は大きなスリッページを招くため避けるべきであり、常に指値注文を用いることが鉄則である。また、スプレッド注文を個別の注文に分けて執行する**「レギング・イン」**というテクニックもあるが、これはリアルタイムで価格を追える環境がなければ推奨されない。
第2部:ボラティリティ――オプション取引の心臓部
ボラティリティとは、オプションの変動の規模を数学的に算出したものであり、オプション取引における最重要概念である。多くのトレーダーはオプション価格そのものを見て「割高」「割安」と判断するが、それは誤りである。オプション価格が高いか安いかを真に決定するのはボラティリティなのである。
1. ボラティリティ活用の基本戦略
ボラティリティの分析は、採用すべきオプション戦略の方向性を決定する上で極めて有効な指針となる。
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ボラティリティが低い時 → オプションの買い戦略 ボラティリティが歴史的に見て低い水準にあるとき、それは市場がエネルギーを溜め込んでいる状態であり、近いうちに大きな価格変動が起こる可能性が高いことを示唆する。このタイミングでオプションを買えば、①プレミアムが安いため低コストでポジションを建てられ、②その後のボラティリティ上昇によって、原資産価格があまり動かなくてもオプションのプレミアム自体が上昇し、利益を得やすくなる。
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ボラティリティが高い時 → オプションの売り戦略 ボラティリティが高いとき、オプションのプレミアムは過大評価されていることが多い。この「割高な」プレミアムを狙ってオプションを売ることで、タイム・ディケイを味方につけ、高い確率で利益を上げることが可能になる。
2. ボラティリティの2つのタイプ
ボラティリティには、分析の目的に応じて使い分けられる2つの主要なタイプがある。
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ヒストリカル・ボラティリティ(HV): 過去の一定期間の原資産価格の変動率から統計的に算出されるボラティリティ。過去の事実を示す。
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インプライド・ボラティリティ(IV): 現在市場で取引されているオプションのプレミアム価格から逆算して算出されるボラティリティ。ブラック・ショールズ・モデルなどの価格評価モデルが用いられる。IVは、市場参加者が将来の価格変動をどの程度と見込んでいるか、その「期待」や「恐怖」を反映する。
著者は、オプションが割高か割安かを判断するために、現在のIVを算出し、それを過去のIVの推移と比較するアプローチを取る。これにより、現在のボラティリティ水準が相対的に高いのか低いのかを客観的に判断できる。
3. インプライド・ボラティリティ(IV)の分析と活用
IVは、単にプレミアムの水準を示すだけでなく、市場の将来を予測するための強力な先行指標となる。
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大相場の先行指標としてのIV: 著者が発見した最も正確な指標の一つがこれである。インプライド・ボラティリティが過去の推移の中で歴史的な低水準に達したとき、その原資産市場は近いうちに大きな動きを見せる可能性が極めて高い。 このシグナルが出現したら、次に原資産のチャート・パターンを分析し、長期的な三角保ち合いからのブレイクアウトなど、トレンド転換の兆候を探す。この2つのシグナルが揃ったときが、絶好のトレードチャンスとなる。
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権利行使価格間の不均衡(ボラティリティ・スキュー): 通常、IVは権利行使価格によって異なる値を示す。特に、相場が急騰または急落すると、大衆投資家が大きなレバレッジを求めてアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のオプションに殺到するため、OTMオプションのIVはアット・ザ・マネー(ATM)やイン・ザ・マネー(ITM)のオプションに比べて異常に高くなる傾向がある。この価格の歪み、つまり「割高なOTMオプション」と「相対的に割安なATMオプション」の存在は、レシオ・スプレッドやイン・ザ・マネー・デビット・スプレッドといった戦略で利益を得るための絶好の機会を提供する。
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ボラティリティのトレンド: 価格と同様に、ボラティリティにもトレンドが存在する。例えば、1987年のブラックマンデー以降、ボラティリティが継続的に減少していく局面では、オプションの売り戦略が非常に有利となった。タイム・ディケイの効果がボラティリティの低下によってさらに加速されたからである。ボラティリティの流れに従い、けっしてそれと戦ってはならない。
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弱気相場とボラティリティ: 歴史的に見て、オプションのボラティリティは弱気相場(価格下落局面)で高くなる傾向がある。これは、市場参加者の恐怖心が高まるためである。この特性を知らないと、弱気相場で安易な売り戦略を取って大きな損失を被る可能性がある。
ボラティリティの分析は、オプション取引の科学的側面の中核をなす。その特性を深く理解し、活用することが、市場に対する「売買の優位性」を確保する上で不可欠である。
第3部:主要オプション戦略詳解
本書では、著者が長年の経験を通じて有効性を検証した7つの主要な売買戦略を中心に解説する。これらの戦略を市場の状況(トレンドの有無、ボラティリティの水準、価格の不均衡など)に応じて柔軟に使い分けることが、プロのトレーダーへの道である。
1. オプションの単純な買い
最も基本的な戦略だが、成功するためには厳格なルールが必要。
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推奨される状況: ①オプション満期日が近く、大きな動きが期待される時。②ボラティリティが相対的に低い時。③チャート・パターンが大きなブレイクアウトを示唆している時。
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限月と権利行使価格の選択:
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限月: 急速な動きが期待できないなら、残存期間が60日未満のオプションは避ける。タイム・ディケイの影響が少ない残存期間3~6ヶ月のオプションが基本。短期勝負なら期近オプションも可。
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権利行使価格: ATMから4つ以上離れたOTMオプションは、大きな動きがなければ利益になりにくいため避ける。ATMか、それより一つ離れたOTMが基本。リスク・リワード比率が4:1以上になるように、複数の権利行使価格を比較検討する。
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手仕舞いルール:
2. フリー・トレード
トレンド形成中の市場で、リスクをなくして利益を追求する洗練された戦略。
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定義: 最初にオプション(コールまたはプット)を買い、相場が思惑通りに動いた後、よりOTMのオプションを売ってプレミアムを受け取る。このプレミアムで当初の購入コストを完全にカバーし、実質的にコストゼロ、リスクゼロのポジションを作り上げる。
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推奨される状況: トレンド形成の初期段階。ボラティリティが低く、オプションの買いコストが安いときに仕掛けるのが理想。ブレイクアウト後にOTMオプションのボラティリティが上昇するため、より有利な条件で売りヘッジが可能になる。
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利点: ポジション完成後は証拠金が不要で、損失の可能性もないため、感情的なプレッシャーから解放される。これにより、冷静に市場を分析し、他の売買機会に集中することができる。
3. 合成先物ポジション
オプションを組み合わせて、先物と類似した損益構造を持つポジションを、より少ないリスクで構築する戦略。
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定義:
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ブル型(強気): コールの買い + プットの売り
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ベア型(弱気): プットの買い + コールの売り
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利点: このポジションは、相場が①上昇、②横ばい、③緩やかに下落、という4つのシナリオのうち3つの場合で利益が出るため、利益になる確率が75%と高い。損失は、相場が急落(ブル型の場合)したときにのみ発生する。
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手仕舞いルール: 相場が思惑に反し、売り建てたオプションがITMに入る前にポジションを手仕舞い、無限の損失を避ける。思惑通りに動いた場合は、売り建てたオプションを利益確定し、残った買いポジションを「フリー・トレード」に転換することも可能。
4. イン・ザ・マネー・デビット・スプレッド
トレンドが明確な市場で、プレミアムの不均衡を利用して高い確率で利益を狙う戦略。
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定義: 同限月のイン・ザ・マネー(ITM)のオプションを買い、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のオプションを売る。差し引き支払い(デビット)でポジションを構築する。
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推奨される状況: トレンド形成の途上。OTMオプションがITMオプションに対して割高(IVが高い)なときに最も効果的。
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利点:
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限定されたリスク: 最大損失は支払ったデビット額に限られる。
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高い利益確率: 相場が①思惑通りに動いた場合、または②横ばいの場合でも、OTMオプションのタイム・ディケイにより利益が出る。
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価格不均衡の利用: 割高なOTMオプションを売り、相対的に割安なITMオプションを買うことで、ボラティリティの歪みから利益を得る。
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5. レシオ・スプレッド
主に相場急騰時に、OTMオプションの異常なほどの割高プレミアムを利用して大きな利益を狙う、著者が最も好む戦略の一つ。
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定義: ATMに近いオプションを1枚買い、それに対してよりOTMのオプションを2枚以上売る(例:1対2のレシオ)。差し引き受け取り(クレジット)で仕掛けるのが原則。
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推奨される状況: 相場が垂直に近い形で急騰し、OTMオプションのIVがATMに比べて50%~150%も高くなったとき。年に数回しか発生しないが、絶好の機会となる。貴金属や穀物市場で発生しやすい。
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利点:
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クレジットでの設定: ポジション構築時にプレミアムを受け取れるため、相場が下落しても損失が出ない。
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広い利益範囲: 相場が横ばい、緩やかな上昇、さらには多少の下落でも利益が出る。
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価格不均衡の最大活用: 異常に割高となったOTMプレミアムを最大限に利用できる。
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リスク管理: 最大のリスクは、相場が売り建てたオプションの権利行使価格を大きく超えて無限に上昇すること。そのため、売り建てた権利行使価格に達したら、必ずポジションを手仕舞うという厳格な損切りルールが必要。
6. ニュートラル・オプション・ポジション
相場の方向性を予測せず、タイム・ディケイと価格不均衡を味方につけて利益を上げる、「胴元」の戦略。
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定義: 同限月のOTMのコールとプットを両方とも売る。ストラングルの売りに相当。
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推奨される状況:
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レンジ相場: 市場に明確なトレンドがなく、一定の価格範囲内を往復しているとき。(市場の60~70%はこの状態にある)
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高ボラティリティ: オプション・プレミアムが相対的に高いときに仕掛けることで、より多くのプレミアムを受け取れる。
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利益の源泉:
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タイム・ディケイ: 時間の経過とともに、売り建てたコールとプット両方の価値が減少していく。
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価格不均衡: OTMオプションの割高なプレミアムを利用する。
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ポジション管理: 相場がどちらか一方に動き、売り建てたオプションの権利行使価格に近づいた場合は、ポジションの調整(一方の買い戻しと、よりOTMのオプションへの乗り換えなど)や手仕舞いが必要。デルタの中立性を維持することが重要。
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利点: 相場の方向性を当てる必要がなく、高い確率(75~90%)で利益を上げることが可能。
7. その他の戦略
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リバース・レシオ・スプレッド: 乱高下が予想される市場で有効。ATMオプションを売り、OTMオプションを2枚以上買う。
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カレンダー・スプレッド: 期近と期先のオプションのボラティリティやタイム・ディケイの差を利用。期近オプションを売り、期先オプションを買う。
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ヘッジ戦略: 既存の先物や株式ポジションに対し、カバード・コール(コール売り)で収益を上乗せしたり、ノーロス・コストフリー・ヘッジ(プット買い+コール売り)でコストゼロで下落リスクを完璧にヘッジしたりする。
これらの戦略を武器として持ち、市場の状況に応じて最適なものを選択できる「柔軟性」こそが、オプション・トレーダーの最大の強みとなる。
第4部:成功するトレーダーのための売買プランと規律
優れた戦略や分析手法を知っているだけでは、トレーディングで成功することはできない。それらを一貫して実行するための**「売買プラン」と、それを遵守するための「規律」**が不可欠である。成功しているトレーダーは例外なく、自分自身のリスク許容度や心理に合った、明確な売買プランを持っている。
1. 売買プランの構築
売買プランは、感情的な衝動取引を防ぎ、論理的で一貫性のある意思決定を行うための設計図である。プランは必ずノートに書き出すことが重要。これにより、自分が本当にプランを持っているのか、単に「そう感じる」から取引しているだけなのかを客観的に判断できる。
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プランに盛り込むべき要素:
2. マネー・マネジメントとリスク管理
資金管理はトレーディングの生命線である。
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リスク許容度: 1回のトレードでリスクにさらす資金は、取引口座全体の10%を超えてはならない。より大きな口座や保守的なトレーダーであれば、その比率は2%~5%に抑えるべきである。著者自身は、いかなるポジションでも500ドルを超えるリスクは取らないというルールを設けている。
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ポジションサイズの調整: プロのトレーダーは、売買の優位性が高いと判断したときにはポジションサイズを大きくし、不確実なときには小さくするなど、状況に応じて賭け金の大きさを柔軟に変える。
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損切り: ポジションを建てる根拠となったシナリオが崩れた場合(例:重要な支持線を下抜けた場合)は、躊躇なく損切りを実行する。
3. 規律と心理
トレーディングは、恐怖や欲望といった人間の弱い性質に直接プレッシャーをかける。成功するためには、これらの感情をコントロールする規律が必要不可欠である。
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忍耐と機会の厳選: ポーカーの名手が勝負手を待つように、最高の売買機会(売買の優位性が高い特別な状況)が発生するまで辛抱強く待つ。プロは取引時間全体の10%~20%しか実際にプレーしない。機会がなければ、「レスト(休み)、レクリエーション(気晴らし)、リサーチ(調査)」に時間を費やす。
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エゴの排除: 自分の相場観が間違っていたことを認め、市場が発するシグナルに素直に耳を傾ける。
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自己責任: すべての取引結果について、責任は自分自身にあると理解する。システムや他人のせいにしていては成長はない。
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自分に合ったスタイルの確立: 成功しているトレーダーは皆、最終的に自分の個性や性格に合った売買スタイルに落ち着いている。短期売買が合う人もいれば、長期的な視点での取引が合う人もいる。自分にとって快適に感じられる手法を用いることが、規律を守り続ける上で重要である。
4. 売買システムに対する考え方
多くのトレーダーが「聖杯(完璧なシステム)」を探し求めるが、それは幻想である。
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システムの限界: 市場に出回るシステムの多くは、①過去のデータに過剰に最適化されている、②スリッページや手数料を考慮していない、③トレーダーの心理に合わない、といった理由で実際には機能しないことが多い。
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究極のシステムは自分自身: たとえ完璧なシステムが存在したとしても、それを規律通りに実行できるトレーダーはほとんどいない。結局のところ、自分自身で市場を分析し、プランを立て、規律を持って実行すること以上に信頼できるシステムはないのである。
成功するトレーダーは、相場の天井や底を狙うのではなく、トレンドの中間部分を確実に取りに行く。そして、最高の利益機会が存在するときにのみトレードするという規律を守りながら、自身の売買プランを淡々と実行するのである。
結論:究極の売買優位性とは
本書を通じて一貫して強調されてきたのは、**「売買の優位性」**を確保することの重要性である。優位性とは、単に相場の方向性を当てることではない。それは、数学的確率、価格の不均衡、そして市場の心理を深く理解し、それらを自分に有利なように利用する能力の総体である。
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イン・ザ・マネー・デビット・スプレッドでは、割安なオプションを買い、満期日に無価値になる可能性の高い割高なオプションを売るという優位性を求める。
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レシオ・スプレッドでは、相場が予想と逆に動いても利益が出る場合があるという、驚異的な優位性を持つ。
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ニュートラル・オプション・ポジションでは、市場の60%以上を占めるレンジ相場で、タイム・ディケイと価格不均衡を味方につけるという、カジノの胴元のような優位性を確保する。
トレーダーは、自分が仕掛けるすべてのトレードにおいて、「自分の優位性は何か?」を明確に説明できなければならない。それができなければ、そのトレードは単なるギャンブルに過ぎない。
成功への道は、複雑なシステムや難解な理論の中にあるのではない。むしろ、その逆である。単純化こそが、売買における最大の利点であり、最も見過ごされた秘密なのである。
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市場の状況を分析する(トレンド、ボラティリティ、不均衡)。
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その状況に最も適した戦略を選択する(柔軟性)。
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明確な売買プランと厳格なリスク管理の下で実行する(規律)。
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最高の機会が来るまで待つ(忍耐)。
このシンプルなプロセスを、宗教的な信仰のように守り続けること。市場は断固たる主人であり、あなたが勝つためには、正しいことをほとんどすべてやる必要がある。本書で解説された原則と戦略は、そのための強力な武器となる。オプション取引を学び、それを適切に用いることは決して容易ではない。しかし、だからこそ、それを習得したトレーダーは、他の市場参加者に対して圧倒的な「売買の優位性」を手にすることができるのだ。
